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貝毒による食中毒の防止と発生時期
 寒い冬も終わり、いよいよ春到来。あちらこちらの海や河口での潮干狩りの風景は、春の風物詩ともいえます。

 ところで、なぜ春に潮干狩りを行うのでしょう?

 単純に気候が暖かくなって外での活動がしやすくなるだけではなく、きちんとした科学的根拠があります。春は潮の満ち引きの差が大きくなり、干潟で掘りやすい条件が整います。潮の満ち引きは「月の引力」「地球の自転による遠心力」「太陽の位置」で決まります。この3つの力、が最大になるとき(回転の中心と月と太陽が一直線になるとき)最も干満の差が大きくなるのです。実は、これは春だけでなく、秋にも同じ現象が起きるのですが、秋は干潮が夜中になってしまうので、潮干狩りには不向きとなってしまいます。ある学説では、潮の満ち引きの差が大きい=地殻に対するひずみが大きいということで、大地震は特に春に起きやすいという研究もあるそうです。

 また、春はアサリの産卵期にあたり、この時期のアサリは身が太っていて味がよいということがあげられます。一般的にアサリは岸に近い個体ほど餌不足の影響から、殻が厚くて身が小さい傾向にあり、逆に沖の個体ほど殻は薄いが身は大きく味もよいとされています。その点でも春は遠くまで潮が引くため、沖合いで良質のアサリを採る潮干狩りに適していると言えるでしょう。

 さて、採れたアサリを家で調理する際に、気を付けなければいけないことがあります。「貝毒」という言葉をご存知でしょうか?一般的に「貝にあたる」という症状は貝毒による食中毒がその原因の多くを占めています。貝毒とは、貝が海水中の有毒プランクトンを捕食し、体内に毒素を貯め込むことにより発生します。貝毒の種類はその原因となるプランクトンの種類により「下痢性貝毒」「麻痺性貝毒」「神経性貝毒」「記憶喪失性貝毒」などに分けられます。プランクトンの生息域の違いによって、日本では「下痢性貝毒」「麻痺性貝毒」の2種類が確認されています。「下痢性貝毒」の症状は消化器系の障害で、摂食後30分〜4時間の内に起こることが多く、激しい下痢、吐気、嘔吐、腰痛などを引き起こします。一般的に3日以内に症状は回復し、後遺症や死亡例はありません。「麻痺性貝毒」の中毒症状はフグ毒によく似ており、摂食後30分程で口唇、舌のしびれが起こり、顔面、手足と徐々に全身に麻痺が広がり最悪の場合、呼吸麻痺を起こして死に至ることもあります。軽度の場合は24〜48時間で回復します。現在、麻痺性貝毒に対する有効な治療法や解毒剤はありませんが、人工呼吸により呼吸を確保し適切な処置を施せば命に影響を及ぼすことはありません。

 なお、これらの毒素は加熱処理をしても毒性が消えることはないため、加熱調理して食べた場合でも発症します。

 貝毒の発生時期は、毒性を持つプランクトンが日照時間の増加と海水温の上昇に伴い、3月ごろから発生し始め、4月、5月ごろに最も発生します。それに伴って、貝の毒化も進んで行くと考えられています。この時期に各行政機関では貝毒による食中毒防止のため、原因となるプランクトンの常時モニタリングを行い、福岡県では筑前海、有明海、豊前海の各二枚貝漁場で検査が実施されています。そして、貝を毒化させるほどのプランクトン大発生時にはマスコミなどを通じて公表されるようになっています。貝そのものについても各海域で貝毒量検査を実施しており、やはり基準値を超えた貝毒が検出された場合は、公表されるしくみです。

 潮干狩りに行く際には、目的地周辺の漁協に問い合わせてみること、またテレビ、新聞などの情報に注意しながら安全に潮干狩りを楽しんでみてはいかがでしょうか?
 



こらぼ2012年春号より抜粋