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質問
 質量分析による細菌同定について

 質量分析技術を利用した細菌の同定は、2011年頃から臨床細菌検査室にも取り入れられはじめ、現在多くの細菌検査室で採用されるようになっています。
 
 質量分析器は、MALDI-TOF MS(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization-Time of Flight Mass Spectrometer)と呼ばれており、国内ではブルカージャパン社のMALDI Biotyper、ビオメリュー・ジャパン社のVITEK MSが細菌同定に使用されています。
 
 MALDI-TOF MSによる細菌同定は、細菌に由来したタンパク質成分の分子量情報(マススペクトル)のパターンから、分離菌株の同定を行います。細菌の代謝を利用した生化学的性状による同定法(従来法)と比較し、迅速的で精度も高いことが知られています。
 
 当検査室で使用しているMALDI Biotyperの場合、同定したい菌株がデータベースのどの菌株(菌種)と近縁であるかをスコア値で表現され、スコア値が高い順に候補の菌種名が表示されます。
 
 スコア値が2.0以上であれば菌種レベルで信頼性が高く、1.7以上2.0未満では属レベルでの一致と判断されます。したがって、データベースに登録されていない菌種の同定はできません。また、MALDI-TOF MSは主にリボゾーム由来のタンパクの違いで同定を行っているため、16SrDNAの配列相同性が高い類縁菌種の同定は難しい傾向があります。
 
 分類学上の問題も絡んできますが、MALDI-TOF MSで大腸菌と赤痢菌の鑑別が出来ないことはよく知られており、そのような菌種は従来法や他の遺伝子学的手法で同定していくことになります。
 
 質量分析技術による細菌同定は精度、迅速性だけではなく、一般検査室レベルでは同定できなかった菌種の同定が可能となったものも多く、臨床細菌検査に大きな変化をもたらしました。しかし、その結果を鵜呑みにしてはならず、細菌検査担当者は、その結果解釈に経験と深く幅広い見識が必要であることに変わりありません。
 
〈参考〉
・質量分析技術を利用した細菌の新しい同定法大楠清文 モダンメディア58巻4号